2013年12月24日火曜日

会社の業務・財産状況を調査するための検査役選任申立

日比谷ステーション法律事務所の弁護士田原です。

 会社の取締役が不正な行為や法令違反行為を行っていることが疑われる場合、株主としては、計算書類・会計帳簿や取締役会議事録を閲覧することによって情報を収集し、取締役に不正・不法な行為があれば、株主総会や取締役解任の訴えによって当該取締役を排除する方法が考えられます。

  計算書類・会計帳簿の閲覧等の請求についてはこちらの記事をご覧下さい。
  →http://hsloffice.blogspot.jp/2013/12/blog-post_12.html

  取締役会議事録の閲覧請求についてはこちらの記事をご覧下さい。
  →http://hsloffice.blogspot.jp/2013/12/blog-post.html

      取締役解任の訴えについてこちらの記事をご覧下さい。
  →http://hsloffice.blogspot.jp/2013/06/blog-post.html


 しかし、計算書類や会計帳簿の閲覧の対象は一定の資料に限定されており、また取締役会議事録についても不正・不法な行為の形跡が残っていることは少ないため、これらの閲覧によって詳細な事実関係や証拠を収集することは難しい場合が多いといえます。

 そのような場合に、株主から裁判所に対して「検査役」の選任を請求し、会社の業務や財産状況を調査してもらうという方法があります。このための手続を「検査役選任申立」といいます。

検査役選任申立の要件
 会社の業務や財産状況の調査のための検査役選任申立の要件に関しては、会社法第358条第1項が次のように定めています。

<会社法第358条第1項>
 株式会社の業務の執行に関し、不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実があることを疑うに足りる事由があるときは、次に掲げる株主は、当該株式会社の業務及び財産の状況を調査させるため、裁判所に対し、検査役の選任の申立をすることができる。
一 総株主(株主総会において決議をすることができる事項の全部につき議決権を行使することができない株主を除く。)の議決権の100分の3(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の議決権を有する株主
二 発行済株式(自己株式を除く。)の100分の3(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の数の株式を有する株主


検査役選任申立の手続
 検査役選任申立は、申立書を会社の本店所在地の地方裁判所に提出する方法で行います。

 検査役選任申立書には1000円分の収入印紙を貼付します。
 また、事務連絡用に裁判所が定める郵便切手と検査役報酬及び費用に相当する金額の予納金を予納します。
 
 検査役の費用及び検査役の報酬は会社の負担となることが会社法上決められていますが、申立にあたって株主が一旦予納する必要があります。
 予納金は、会社の規模や調査対象によって変わりますが、過去の例に照らすと数十万円から数百万円の範囲が多いようです。

 なお検査役の資格について法律は何も定めていませんが、実際には弁護士が選任されるのが通常です。


検査役による調査対象
 検査役選任申立を受けた裁判所が申立要件が充足されていると判断した場合、裁判所は検査役を選任しますが、その際、検査役による調査事項を検査目的の範囲に限定します。
 もっとも、検査役は調査事項を調査するために必要であれば、計算書類や会計帳簿に限定されない広範な調査権を有しており、必要があるときは子会社の業務・財産状況も調査することができます(会社法第358条第4項)。
 

検査役による調査の報告
 検査役は調査の結果を書面で裁判所に報告し、検査役選任申立を行った株主と会社にも書面の写しを提供する義務を負っています(会社法第358条第7項)。
 

日比谷ステーション法律事務所では、株式会社の業務・財産状況を調査するための検査役選任申立に関する法律相談を常時受け付けています。
ご相談は「03-5293-1775」までお気軽にどうぞ。

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2013年12月12日木曜日

株主による会計帳簿閲覧謄写請求と計算書類閲覧請求

日比谷ステーション法律事務所の弁護士田原です。

 株主が会社の資産状況や財務状況を知りたい場合、会社に対して会計帳簿の閲覧・謄写や計算書類の閲覧を請求する権利が認められています。


会計帳簿の閲覧・謄写請求

 まず会計帳簿の閲覧・謄写については、会社法第433条第1項が次のように定めています。

<会社法第433条第1項>
総株主(株主総会において決議をすることができる事項の全部につき議決権を行使することができない株主を除く。)の議決権の100分の3(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の議決権を有する株主又は発行済株式(自己株式を除く。)の100分の3(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の数の株式を有する株主は、株式会社の営業時間内は、いつでも、次に掲げる請求をすることができる。この場合においては、当該請求の理由を明らかにしてしなければならない。
 
一 会計帳簿又はこれに関する資料が書面をもって作成されているときは、当該書面の閲覧又は謄写の請求
二 会計帳簿又はこれに関する資料が電磁的記録をもって作成されているときは、当該電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したものの閲覧又は謄写の請求


 閲覧・謄写の対象となるのは、「会計帳簿又はこれに関する資料」です。

 ここで「会計帳簿」とは、計算書類及びその附属明細書の作成の基礎となる帳簿のことを意味し、具体的には、日記帳、仕訳帳、総勘定元帳及び各種の補助簿(補助記入帳や補助元帳)、伝票を仕訳帳に代用する場合の伝票等を指します。
 

 また「これに関する資料」とは、会計帳簿の記録材料となった資料や会計帳簿を実質的に補充する資料を意味し、伝票、受取書、契約書、信書等を指すものと理解されています。


 株主からの会計帳簿閲覧謄写請求に対し、会社は次のいずれかに該当する場合を除き、閲覧謄写の請求を拒むことはできないこととされています(会社法第433条第2項)。

  1.  請求者がその権利の確保又は行使に関する調査以外の目的で請求を行ったとき
  2.  請求者が当該株式会社の業務の遂行を妨げ、又は株主の共同の利益を害する目的で請求を行ったとき
  3.  請求者が当該株式会社の業務と実質的に競争関係にある事業を営み、又はこれに従事するものであるとき
  4.  閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報するため請求を行ったとき
  5.  請求者が過去2年以内において閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報したことがあるものであるとき

 取締役が正当な理由なく株主からの閲覧・謄写請求を拒絶した場合には、過料に処される場合があります(会社法第976条第4号)。
 
 
 
 
 
計算書類の閲覧請求
 
 計算書類の閲覧・謄写については、会社法第442条第3項が次のように定めています。
<会社法第442条第3項>
株主及び債権者は、株式会社の営業時間内は、いつでも、次に掲げる請求をすることができる。ただし、第2号又は第4号に掲げる請求をするには、当該株式会社の定めた費用を支払わなければならない。
一 計算書類等が書面をもって作成されているときは、当該書面又は当該書面の写しの閲覧の請求
二 前号の書面の謄本又は抄本の交付の請求
三 計算書類等が電磁的記録をもって作成されているときは、当該電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したものの閲覧の請求
四 前号の電磁的記録に記録された事項を電磁的方法であって株式会社の定めたものにより提供することの請求又はその事項を記載した書面の交付の請求
 
 

 
 閲覧等の対象となるのは「各事業年度に係る計算書類及び事業報告並びにこれらの附属明細書」と「臨時計算書類」です。

  
 ここで「計算書類」とは、貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、個別注記表を意味します。 
 

 
 会計帳簿の場合と異なり、株主からの閲覧請求に対する拒否事由が法律上定められていませんので、会社は株主からの閲覧請求があった場合には、これに応じなければなりません。

 取締役が正当な理由なく株主からの閲覧請求を拒絶した場合には、会計帳簿の場合と同様に、科料に処される場合があります(会社法第976条第4号)。
 

株主からの閲覧請求等に会社(取締役)が応じない場合の訴訟

 株主からの会計帳簿の閲覧・謄写請求や計算書類閲覧請求に対し、会社が正当な理由なくこれを拒否する場合には、裁判所に訴訟を提起して閲覧等を求めることができます。

 また、正当な理由なく閲覧等を拒絶する取締役に対しては、損害賠償を請求する訴訟を提起することも可能です。


 なお、会社の業務や財産の状況を調査する方法としては、公正な検査役の選任を裁判所に申し立てる手続もあります。

 会社の業務・財産状況を調査するための検査役選任申立についてはこちらの記事をご覧下さい
 
 →http://hsloffice.blogspot.jp/2013/12/blog-post_24.html


日比谷ステーション法律事務所では、株主による会計帳簿・計算書類の閲覧謄写請求に関する法律相談を常時受け付けています。
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2013年12月7日土曜日

株主による株主総会の招集~会社に対する株主総会招集請求と裁判所に対する株主総会招集許可の申立~

日比谷ステーション法律事務所の弁護士田原です。

 会社法は毎年事業年度終了後一定の時期に株主総会を招集しなければならないと規定していますが(会社法第296条第1項)、閉鎖会社、殊に同族会社の場合には株主総会が開催されないことが常態化しているというケースが多く見受けられます。
 株主総会の不開催に対して会社法は過料の制裁を規定していますが(会社法第976条第18号)、株主総会の不開催が常態化しているような会社においては、株主総会が開催されないことに違和感を感じる人も多くなく、問題が顕在化しないのです。

 しかし、経営陣や株主の世代交代が生じるタイミングや経営状況が悪化して会社の建て直しが必要となったタイミングなどに、株主が会社の重要な意思決定、例えば取締役の解任をしたいと考えた場合、株主総会の開催が必要となります。
 ところが、会社法は、株主総会の招集は原則として取締役の権限かつ職責であると定めていますので(会社法第296条第3項)、取締役にとって不利な株主総会決議が予想されるような場合、取締役が株主総会を招集しないという事態が懸念されます。
 
 このような事態に対応するため、会社法第297条は以下のように定め、(1)株主から取締役に対する株主総会招集の請求と、(2)株主から裁判所に対する株主総会招集許可の申立の制度を設けています。

<会社法第297条>
(第1項)
 総株主の議決権の100分の3(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の議決権を6箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き有する株主は、取締役に対し、株主総会の目的である事項(当該株主が議決権を行使することができる事項に限る。)及び招集の理由を示して、株主総会の招集を請求することができる。
(第2項)
 公開会社でない株式会社における前項の規定の適用については、同項中「6箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き有する」とあるのは、「有する」とする。
(第3項)
 第1項の株主総会の目的である事項について議決権を行使することができない株主が有する議決権の数は、同項の総株主の議決権の数に算入しない。
(第4項)
 次に掲げる場合には、第1項の規定による請求をした株主は、裁判所の許可を得て、株主総会を招集することができる。
一 第1項の規定による請求の後遅滞なく招集の手続が行われない場合
二 第1項の規定による請求があった日から8週間(これを下回る期間を定款で定めた場合には、その期間)以内の日を株主総会の日とする株主総会の招集の通知が発せられない場合 

 株主による株主総会招集請求と、同請求を受けても株主総会の招集がされない場合の株主総会招集許可の申立により、株主がイニシアティブをとって株主総会を招集することが可能となります。

 株主による株主総会の招集は以下の手順で行うこととなります。

  1. 株主から取締役に対する株主総会招集請求
  2. 株主から裁判所に対する株主総会招集許可の申立
  3. 株主による株主総会招集


 裁判所に対する株主総会招集許可の申立を行う場合、申立手数料として1000円分の収入印紙を申立書に貼付する必要があります。
 
 株主が裁判所の許可を得て株主総会を招集した場合、招集の費用は当然会社の負担となるという考え方と、「合理的な額」を会社に請求できるとする考え方があります。


日比谷ステーション法律事務所では、株主総会招集請求や株主総会招集許可申立に関する法律相談を常時受け付けています。
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2013年12月5日木曜日

株主総会議事録の閲覧と取締役会議事録の閲覧について~閲覧・謄写の権利と制約~

日比谷ステーション法律事務所の弁護士田原です。

 株式会社が会社としての意思決定をする手続きの一つとして、株主総会や取締役会における議論と決議が必要となりますが、株主総会や取締役会の議事と決議に関しては、法律上、議事録を作成し一定期間備え置くことが義務付けられています。
 そして、株主・債権者・親会社社員については、それぞれ一定の条件の下で議事録の閲覧・謄写を行う権利も認められています。

株主総会議事録の閲覧・謄写に関する法律の定め

 株主総会の議事録については、会社法第318条が以下のように定めています。

会社法第318条
第1項 
株主総会の議事については、法務省令で定めるところにより、議事録を作成しなければならない。
第2項 
株式会社は、株主総会の日から10年間、前項の議事録をその本店に備え置かなければならない。
第3項 
株式会社は、株主総会の日から5年間、第1項の議事録の写しをその支店に備え置かなければならない。ただし、当該議事録が電磁的記録をもって作成されている場合であって、支店における次項第2号に掲げる請求に応じることを可能とするための措置として法務省令で定めるものをとっているときは、この限りでない。
第4項 
株主及び債権者は、株式会社の営業時間内は、いつでも、次に掲げる請求をすることができる。
一 第1項の議事録が書面をもって作成されているときは、当該書面又は当該書面の写しの閲覧又は謄写の請求
二 第1項の議事録が電磁的記録をもって作成されているときは、当該電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したものの閲覧又は謄写の請求
第5項
株式会社の親会社社員は、その権利を行使するため必要があるときは、裁判所の許可を得て、第1項の議事録について前項各号に掲げる請求をすることができる。


取締役会議事録の閲覧・謄写に関する法律の定め

 取締役会の議事録については、会社法第369条第3項及び第371条が以下のように定めています。

会社法第369条
第3項 
取締役会の議事録については、法務省令で定めるところにより、議事録を作成し、議事録が書面をもって作成されているときは、出席した取締役及び監査役は、これに署名し、又は記名押印しなければならない。

会社法第371条
第1項 
取締役会設置会社は、取締役会の日(前条の規定により取締役会の決議があったものとみなされた日を含む。)から10年間、第369条第3項の議事録又は前条の意思表示を記載し、若しくは記録した書面若しくは電磁的記録(以下この条において「議事録等」という。)をその本店に備え置かなければならない。
第2項 
株主は、その権利を行使するため必要があるときは、株式会社の営業時間内は、いつでも、次に掲げる請求をすることができる。
一 前項の議事録等が書面をもって作成されているときは、当該書面の閲覧又は謄写の請求
二 前項の議事録等が電磁的記録をもって作成されているときは、当該電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したものの閲覧又は謄写の請求
第3項 
監査役設置会社又は委員会設置会社における前項の規定の適用については、同項中「株式会社の営業時間内は、いつでも」とあるのは、「裁判所の許可を得て」とする。
第4項 
取締役会設置会社の債権者は、役員又は執行役の責任を追及するため必要があるときは、裁判所の許可を得て、当該取締役会設置会社の議事録等について第2項各号に掲げる請求をすることができる。
第5項 
前項の規定は、取締役会設置会社の親会社社員がその権利を行使するため必要があるときについて準用する。
第6項 
裁判所は、第3項において読み替えて適用する第2項各号に掲げる請求又は第4項(前項において準用する場合を含む。以下この項において同じ。)の請求に係る閲覧又は謄写をすることにより、当該取締役会設置会社又はその親会社若しくは子会社に著しい損害を及ぼすおそれがあると認めるときは、第3項において読み替えて適用する第2項の許可又は第4項の許可をすることができない。


両議事録の閲覧・謄写請求に対する制約の有無

 株主による株主総会議事録の閲覧・謄写の権利についてみると、株主は、株主総会のあった日から10年間、会社の営業時間内であれば、何らの制約なく株主総会議事録を閲覧・謄写することが権利として認められています。

 他方で、株主による取締役会議事録の閲覧・謄写の権利は、権利を行使するために必要であるときのみに認められ、しかも、監査役や委員会が設置されている会社の場合には裁判所の許可を得なければ閲覧・謄写の権利が認められていません。
 これは、取締役会の議事には秘密を要する事項も含まれている可能性があり、各株主に自由に議事録を閲覧・謄写することを認めると会社全体の利益を害するおそれがあり、他方で監査役や委員会が設置されている会社にあっては、それらの監査役等が適切に取締役会を監視することが期待できるとの考えに基づいています。
 そのため、監査役や委員会が設置されていない会社においては、株主は権利を行使するために必要であれば、裁判所の許可を得ることなく、取締役会議事録の閲覧・謄写をすることができます。
 他方、監査役や委員会が設置されている株式会社においては、株主は裁判所の許可を得て取締役会議事録を閲覧・謄写する必要があり、裁判所に対して「取締役会議事録閲覧謄写許可申立」を行うこととなります
 同許可申立は、会社の本店所在地を管轄する地方裁判所に対し、申立書に手数料として1000円分の収入印紙を貼付して申し立てます。


日比谷ステーション法律事務所では、株主総会議事録や取締役会議事録の閲覧・謄写に関する法律相談を常時受け付けています。
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2013年11月25日月曜日

取締役の辞任~取締役はどのような手続で辞任することができるのか~

日比谷ステーション法律事務所の弁護士田原です。

株式会社の取締役は多くの場合2年の任期で就任していることが多いかと思いますが、任期途中で取締役を辞任する場合もあります。
今日は取締役の辞任についての法律問題を解説したいと思います。


取締役は自分の意思で辞任することができるか?

まず、取締役は自分の意思で辞任することができるのか?これは言い換えれば他の取締役や株主の意思に反してでも辞任することができるのかという問題です。

取締役と会社との法律関係は委任契約の一種であると理解されており、民法上の委任の規定が適用されます。
そして、民法の委任に関する規定は、「委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる。」(民法第651条第1項)と定めておりますので、取締役は、いつでも自分の意思で一方的に取締役を辞任することができるということになります。

ただし、取締役の辞任によって欠員が出てしまう場合には、取締役の一方的な都合での辞任を認めるわけにはいきませんので、会社法は「役員が欠けた場合又はこの法律若しくは定款で定めた役員の員数が欠けた場合には、任期の満了又は辞任により退任した役員は、新たに選任された役員が就任するまで、なお役員としての権利義務を有する。」(会社法第346条第1項)と定め、新任の取締役が就任するまでの間は取締役の義務を免れることはできないこととされています。


取締役を辞任するにはどうすればよいか?

(1)自分の他に代表取締役がいる場合
自分以外の者が代表取締役として存在する場合には、代表取締役に対して辞任届(辞表)を提出することで辞任することが可能です。辞任届(辞表)は一方的な意思表示で足りますので、辞任届(辞表)が代表取締役に到達すれば効力を生じます。
代表取締役に手渡しで辞任届を提出すれば辞任の効果は生じるのですが、後になって「受理していない。」と言われる可能性があるのであれば、内容証明郵便等の形式で提出することが有効です。

(2)自分が唯一の代表取締役であり、会社に取締役会がある場合
自分が唯一の代表取締役である場合には、代表取締役に対して辞任届(辞表)を提出する方法では辞任することができませんので、原則として、取締役会を招集して辞任の意思表示を行う必要があります。
もっとも、別の方法によって他の取締役全員に辞意が伝わりさえすれば、それで辞任の効力が認められると考えられています。

(3)自分が会社の唯一の取締役である場合
自分しか会社の取締役がいない場合に辞任するケースは極めて少ないといえますが、仮に辞任する場合には、会社の幹部従業員に対して辞任の意思表示受領権限を付与した上で、この幹部従業員に意思表示することで辞任することができる可能性があります。


・取締役を辞任する場合の注意点

以上のように、取締役は自分の意思で一方的に取締役を辞任することができますが、会社に不利な時期に一方的に辞任した場合には、辞任にやむを得ない理由がない限り、会社に対する損害賠償責任を負う可能性がありますので(民法第651条第2項)、その点についての注意が必要といえます。


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2013年6月19日水曜日

不正な行為を行う取締役を解任するには~取締役解任の訴え~

日比谷ステーション法律事務所の弁護士田原です。

今日は株式会社の取締役解任の訴えについて解説します。


・取締役解任2つの方法

株式会社の取締役が職務執行に関して不正な行為を行ったり法令・定款に違反したような場合、
会社は当該取締役に対して損害賠償の請求を行うができます。
また不正行為を行うことが事前に判明している場合には当該行為の差し止めを行うことも可能です。
しかし、取締役が日常的に不正な行為を繰り返し行っている場合に、個別の不正行為に対して事前の差し止めや損害賠償請求を行うのではきりがないという状況も多く見られます。
そのような場合、取締役による不正行為に個別に対応するのではなく、当該取締役を解任するほうが事態の解決として効果的であるということがあります。

取締役を任期途中で解任する方法としては以下の2つの方法が挙げられます。
  • 株主総会で取締役の解任を決議する
  • 取締役解任の訴えを提起し裁判所の判決で解任する

・取締役解任の訴えを選択すべき場合

上記2つの方法のうち、株主総会の決議によって解任する方法は、取締役の解任を考えている株主自身が過半数の株式を保有している場合や、株主の中に協力者がいて議決権の過半数を確保できるような場合には利用が可能です。
しかし、解任対象の取締役を支持する株主が多数派であるような場合には取締役の解任決議が株主総会で通りませんので、この方法をとることはできません。

そこで、解任すべき取締役を支持する株主が多数派であるような場合には、2つ目の方法である取締役解任の訴えを提起するという方法を選ぶこととなります。


・取締役解任の訴え提起のための3要件

取締役解任の訴えを提起するためには、以下の3つの要件をすべて充たす必要があります。

  1. 取締役が職務執行に関して不正行為や法令・定款に違反する重大な事実があったこと
  2. 株主総会で取締役解任決議が否決されたこと
  3. 原告が総株主の議決権の100分の3以上の議決権又は発行済み株式の100分の3以上の数の株式を保有していること(公開会社の場合には訴えの提起の日から逆算して6か月前から株式を保有していることが条件となる)


・取締役の不正行為・法令・定款に違反する重大な事実

会社法854条第1項は「役員の職務の執行に関し不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実があった」ことを取締役解任の訴えの要件としています。

不正行為の典型的なものとしては、会社の財産を私的に費消しているような場合があり、実際の裁判でも取締役個人の会社の財産を混同して管理していたケースにおいて、不正行為の存在を認めたものがあります。

また法令・定款違反の重大な事実としては、取締役が特別な理由もないのに株主総会を何年も招集しなかったような場合が挙げられます。


・株主総会で取締役解任決議が否決されたこと
会社法854条第1項は「当該役員を解任する旨の議案が株主総会において否決された」ことを取締役解任の訴えの要件としています。

この要件を字義通りにとらえると、定足数の出席を得て解任議案を上程し審議がされたものの決議が否決されたことが必要とも考えられますが、これでは多数派株主が株主総会をボイコットすることで取締役解任の訴えを妨害することができてしまうため、定足数不足によって株主総会が流会となったような場合も含まれるものと一般に解されています

他方、単に解任対象とする取締役を支持する株主が多数派であり、株主総会に解任議案を付議しても承認決議がされる見込みがないというだけでは、本要件を充たしたことにはならないと解されています。


・一定数以上の株式・議決権の保有

取締役解任の訴えを提起するためには、総株主の議決権の100分の3以上の議決権又は発行済み株式の100分の3以上の数の株式を保有していることが必要となります。

保有議決権割合・株式割合の計算に当たっては以下の点に注意が必要です。

まず「総株主」からは、当該取締役を解任する旨の議案について議決権を行使することができない株主及び当該請求に係る取締役である株主が除外されます。

また「発行済株式」からは、会社自身が有する株式及び当該請求に係る取締役である株主が有する株式が除外されます。


・取締役解任の訴えを提起する前に検討すべきこと

取締役解任の訴えが裁判所で認められた場合、当該取締役は判決の効力として取締役の地位を失うことになります。
しかし、会社法上、解任判決によって取締役の地位を失った者についても株主総会で再度取締役に選任することが許されています。
そのため、解任された取締役自身が大株主であるような場合や多数派株主の支持を得ているような場合には、解任の効果は一時的なものにとどまり、解任を行うだけでは抜本的な解決とならない場合もあるといえます。

取締役解任の訴えを提起する前には、会社の株主構成等にも目配りをし、解任の訴えが事態を解決するために有用な方法となるのかどうかをよく考慮する必要があります。


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2013年5月10日金曜日

契約書締結後の管理について

日比谷ステーション法律事務所の弁護士田原です。

今日は契約書を締結した後の管理についてコメントしたいと思います。

みなさんの会社では、取引先と契約書を締結した後その契約書について管理するルールが決まっているでしょうか。
「契約書は決められたキャビネットに保管する決まりになっている。」
そういう会社も多いかもしれません。

たしかに、契約書の管理という場合、契約書原本が紛失しないように保管することは重要ですが、契約書を締結した後、契約書を保管しておくだけでは十分とは言えません。
契約書というものは、契約当事者が合意した内容を書面にまとめたものですが、企業間の契約の場合、社内の関係部署に周知されてはじめて実効性を持つものです。

そのため、最低限以下のような契約書の「積極的な管理」を行うことが必要だと考えます。

  1. 契約書原本を所定の場所に保管する
  2. 契約書のポイントをまとめた書面を作成し関係部署に配布する
  3. 契約書で定められた権利・義務に関するスケジュールを作成し関係部署に配布する

契約書を締結した後、契約書の内容を実現していくことに契約の本当の意義がありますので、契約書を締結した後、積極的な管理をしていくことをお勧めします。


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