2013年12月24日火曜日

会社の業務・財産状況を調査するための検査役選任申立

日比谷ステーション法律事務所の弁護士田原です。

 会社の取締役が不正な行為や法令違反行為を行っていることが疑われる場合、株主としては、計算書類・会計帳簿や取締役会議事録を閲覧することによって情報を収集し、取締役に不正・不法な行為があれば、株主総会や取締役解任の訴えによって当該取締役を排除する方法が考えられます。

  計算書類・会計帳簿の閲覧等の請求についてはこちらの記事をご覧下さい。
  →http://hsloffice.blogspot.jp/2013/12/blog-post_12.html

  取締役会議事録の閲覧請求についてはこちらの記事をご覧下さい。
  →http://hsloffice.blogspot.jp/2013/12/blog-post.html

      取締役解任の訴えについてこちらの記事をご覧下さい。
  →http://hsloffice.blogspot.jp/2013/06/blog-post.html


 しかし、計算書類や会計帳簿の閲覧の対象は一定の資料に限定されており、また取締役会議事録についても不正・不法な行為の形跡が残っていることは少ないため、これらの閲覧によって詳細な事実関係や証拠を収集することは難しい場合が多いといえます。

 そのような場合に、株主から裁判所に対して「検査役」の選任を請求し、会社の業務や財産状況を調査してもらうという方法があります。このための手続を「検査役選任申立」といいます。

検査役選任申立の要件
 会社の業務や財産状況の調査のための検査役選任申立の要件に関しては、会社法第358条第1項が次のように定めています。

<会社法第358条第1項>
 株式会社の業務の執行に関し、不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実があることを疑うに足りる事由があるときは、次に掲げる株主は、当該株式会社の業務及び財産の状況を調査させるため、裁判所に対し、検査役の選任の申立をすることができる。
一 総株主(株主総会において決議をすることができる事項の全部につき議決権を行使することができない株主を除く。)の議決権の100分の3(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の議決権を有する株主
二 発行済株式(自己株式を除く。)の100分の3(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の数の株式を有する株主


検査役選任申立の手続
 検査役選任申立は、申立書を会社の本店所在地の地方裁判所に提出する方法で行います。

 検査役選任申立書には1000円分の収入印紙を貼付します。
 また、事務連絡用に裁判所が定める郵便切手と検査役報酬及び費用に相当する金額の予納金を予納します。
 
 検査役の費用及び検査役の報酬は会社の負担となることが会社法上決められていますが、申立にあたって株主が一旦予納する必要があります。
 予納金は、会社の規模や調査対象によって変わりますが、過去の例に照らすと数十万円から数百万円の範囲が多いようです。

 なお検査役の資格について法律は何も定めていませんが、実際には弁護士が選任されるのが通常です。


検査役による調査対象
 検査役選任申立を受けた裁判所が申立要件が充足されていると判断した場合、裁判所は検査役を選任しますが、その際、検査役による調査事項を検査目的の範囲に限定します。
 もっとも、検査役は調査事項を調査するために必要であれば、計算書類や会計帳簿に限定されない広範な調査権を有しており、必要があるときは子会社の業務・財産状況も調査することができます(会社法第358条第4項)。
 

検査役による調査の報告
 検査役は調査の結果を書面で裁判所に報告し、検査役選任申立を行った株主と会社にも書面の写しを提供する義務を負っています(会社法第358条第7項)。
 

日比谷ステーション法律事務所では、株式会社の業務・財産状況を調査するための検査役選任申立に関する法律相談を常時受け付けています。
ご相談は「03-5293-1775」までお気軽にどうぞ。

日比谷ステーション法律事務所の公式ホームページ
http://www.lawcenter.jp/


2013年12月12日木曜日

株主による会計帳簿閲覧謄写請求と計算書類閲覧請求

日比谷ステーション法律事務所の弁護士田原です。

 株主が会社の資産状況や財務状況を知りたい場合、会社に対して会計帳簿の閲覧・謄写や計算書類の閲覧を請求する権利が認められています。


会計帳簿の閲覧・謄写請求

 まず会計帳簿の閲覧・謄写については、会社法第433条第1項が次のように定めています。

<会社法第433条第1項>
総株主(株主総会において決議をすることができる事項の全部につき議決権を行使することができない株主を除く。)の議決権の100分の3(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の議決権を有する株主又は発行済株式(自己株式を除く。)の100分の3(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の数の株式を有する株主は、株式会社の営業時間内は、いつでも、次に掲げる請求をすることができる。この場合においては、当該請求の理由を明らかにしてしなければならない。
 
一 会計帳簿又はこれに関する資料が書面をもって作成されているときは、当該書面の閲覧又は謄写の請求
二 会計帳簿又はこれに関する資料が電磁的記録をもって作成されているときは、当該電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したものの閲覧又は謄写の請求


 閲覧・謄写の対象となるのは、「会計帳簿又はこれに関する資料」です。

 ここで「会計帳簿」とは、計算書類及びその附属明細書の作成の基礎となる帳簿のことを意味し、具体的には、日記帳、仕訳帳、総勘定元帳及び各種の補助簿(補助記入帳や補助元帳)、伝票を仕訳帳に代用する場合の伝票等を指します。
 

 また「これに関する資料」とは、会計帳簿の記録材料となった資料や会計帳簿を実質的に補充する資料を意味し、伝票、受取書、契約書、信書等を指すものと理解されています。


 株主からの会計帳簿閲覧謄写請求に対し、会社は次のいずれかに該当する場合を除き、閲覧謄写の請求を拒むことはできないこととされています(会社法第433条第2項)。

  1.  請求者がその権利の確保又は行使に関する調査以外の目的で請求を行ったとき
  2.  請求者が当該株式会社の業務の遂行を妨げ、又は株主の共同の利益を害する目的で請求を行ったとき
  3.  請求者が当該株式会社の業務と実質的に競争関係にある事業を営み、又はこれに従事するものであるとき
  4.  閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報するため請求を行ったとき
  5.  請求者が過去2年以内において閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報したことがあるものであるとき

 取締役が正当な理由なく株主からの閲覧・謄写請求を拒絶した場合には、過料に処される場合があります(会社法第976条第4号)。
 
 
 
 
 
計算書類の閲覧請求
 
 計算書類の閲覧・謄写については、会社法第442条第3項が次のように定めています。
<会社法第442条第3項>
株主及び債権者は、株式会社の営業時間内は、いつでも、次に掲げる請求をすることができる。ただし、第2号又は第4号に掲げる請求をするには、当該株式会社の定めた費用を支払わなければならない。
一 計算書類等が書面をもって作成されているときは、当該書面又は当該書面の写しの閲覧の請求
二 前号の書面の謄本又は抄本の交付の請求
三 計算書類等が電磁的記録をもって作成されているときは、当該電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したものの閲覧の請求
四 前号の電磁的記録に記録された事項を電磁的方法であって株式会社の定めたものにより提供することの請求又はその事項を記載した書面の交付の請求
 
 

 
 閲覧等の対象となるのは「各事業年度に係る計算書類及び事業報告並びにこれらの附属明細書」と「臨時計算書類」です。

  
 ここで「計算書類」とは、貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、個別注記表を意味します。 
 

 
 会計帳簿の場合と異なり、株主からの閲覧請求に対する拒否事由が法律上定められていませんので、会社は株主からの閲覧請求があった場合には、これに応じなければなりません。

 取締役が正当な理由なく株主からの閲覧請求を拒絶した場合には、会計帳簿の場合と同様に、科料に処される場合があります(会社法第976条第4号)。
 

株主からの閲覧請求等に会社(取締役)が応じない場合の訴訟

 株主からの会計帳簿の閲覧・謄写請求や計算書類閲覧請求に対し、会社が正当な理由なくこれを拒否する場合には、裁判所に訴訟を提起して閲覧等を求めることができます。

 また、正当な理由なく閲覧等を拒絶する取締役に対しては、損害賠償を請求する訴訟を提起することも可能です。


 なお、会社の業務や財産の状況を調査する方法としては、公正な検査役の選任を裁判所に申し立てる手続もあります。

 会社の業務・財産状況を調査するための検査役選任申立についてはこちらの記事をご覧下さい
 
 →http://hsloffice.blogspot.jp/2013/12/blog-post_24.html


日比谷ステーション法律事務所では、株主による会計帳簿・計算書類の閲覧謄写請求に関する法律相談を常時受け付けています。
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2013年12月7日土曜日

株主による株主総会の招集~会社に対する株主総会招集請求と裁判所に対する株主総会招集許可の申立~

日比谷ステーション法律事務所の弁護士田原です。

 会社法は毎年事業年度終了後一定の時期に株主総会を招集しなければならないと規定していますが(会社法第296条第1項)、閉鎖会社、殊に同族会社の場合には株主総会が開催されないことが常態化しているというケースが多く見受けられます。
 株主総会の不開催に対して会社法は過料の制裁を規定していますが(会社法第976条第18号)、株主総会の不開催が常態化しているような会社においては、株主総会が開催されないことに違和感を感じる人も多くなく、問題が顕在化しないのです。

 しかし、経営陣や株主の世代交代が生じるタイミングや経営状況が悪化して会社の建て直しが必要となったタイミングなどに、株主が会社の重要な意思決定、例えば取締役の解任をしたいと考えた場合、株主総会の開催が必要となります。
 ところが、会社法は、株主総会の招集は原則として取締役の権限かつ職責であると定めていますので(会社法第296条第3項)、取締役にとって不利な株主総会決議が予想されるような場合、取締役が株主総会を招集しないという事態が懸念されます。
 
 このような事態に対応するため、会社法第297条は以下のように定め、(1)株主から取締役に対する株主総会招集の請求と、(2)株主から裁判所に対する株主総会招集許可の申立の制度を設けています。

<会社法第297条>
(第1項)
 総株主の議決権の100分の3(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の議決権を6箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き有する株主は、取締役に対し、株主総会の目的である事項(当該株主が議決権を行使することができる事項に限る。)及び招集の理由を示して、株主総会の招集を請求することができる。
(第2項)
 公開会社でない株式会社における前項の規定の適用については、同項中「6箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き有する」とあるのは、「有する」とする。
(第3項)
 第1項の株主総会の目的である事項について議決権を行使することができない株主が有する議決権の数は、同項の総株主の議決権の数に算入しない。
(第4項)
 次に掲げる場合には、第1項の規定による請求をした株主は、裁判所の許可を得て、株主総会を招集することができる。
一 第1項の規定による請求の後遅滞なく招集の手続が行われない場合
二 第1項の規定による請求があった日から8週間(これを下回る期間を定款で定めた場合には、その期間)以内の日を株主総会の日とする株主総会の招集の通知が発せられない場合 

 株主による株主総会招集請求と、同請求を受けても株主総会の招集がされない場合の株主総会招集許可の申立により、株主がイニシアティブをとって株主総会を招集することが可能となります。

 株主による株主総会の招集は以下の手順で行うこととなります。

  1. 株主から取締役に対する株主総会招集請求
  2. 株主から裁判所に対する株主総会招集許可の申立
  3. 株主による株主総会招集


 裁判所に対する株主総会招集許可の申立を行う場合、申立手数料として1000円分の収入印紙を申立書に貼付する必要があります。
 
 株主が裁判所の許可を得て株主総会を招集した場合、招集の費用は当然会社の負担となるという考え方と、「合理的な額」を会社に請求できるとする考え方があります。


日比谷ステーション法律事務所では、株主総会招集請求や株主総会招集許可申立に関する法律相談を常時受け付けています。
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2013年12月5日木曜日

株主総会議事録の閲覧と取締役会議事録の閲覧について~閲覧・謄写の権利と制約~

日比谷ステーション法律事務所の弁護士田原です。

 株式会社が会社としての意思決定をする手続きの一つとして、株主総会や取締役会における議論と決議が必要となりますが、株主総会や取締役会の議事と決議に関しては、法律上、議事録を作成し一定期間備え置くことが義務付けられています。
 そして、株主・債権者・親会社社員については、それぞれ一定の条件の下で議事録の閲覧・謄写を行う権利も認められています。

株主総会議事録の閲覧・謄写に関する法律の定め

 株主総会の議事録については、会社法第318条が以下のように定めています。

会社法第318条
第1項 
株主総会の議事については、法務省令で定めるところにより、議事録を作成しなければならない。
第2項 
株式会社は、株主総会の日から10年間、前項の議事録をその本店に備え置かなければならない。
第3項 
株式会社は、株主総会の日から5年間、第1項の議事録の写しをその支店に備え置かなければならない。ただし、当該議事録が電磁的記録をもって作成されている場合であって、支店における次項第2号に掲げる請求に応じることを可能とするための措置として法務省令で定めるものをとっているときは、この限りでない。
第4項 
株主及び債権者は、株式会社の営業時間内は、いつでも、次に掲げる請求をすることができる。
一 第1項の議事録が書面をもって作成されているときは、当該書面又は当該書面の写しの閲覧又は謄写の請求
二 第1項の議事録が電磁的記録をもって作成されているときは、当該電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したものの閲覧又は謄写の請求
第5項
株式会社の親会社社員は、その権利を行使するため必要があるときは、裁判所の許可を得て、第1項の議事録について前項各号に掲げる請求をすることができる。


取締役会議事録の閲覧・謄写に関する法律の定め

 取締役会の議事録については、会社法第369条第3項及び第371条が以下のように定めています。

会社法第369条
第3項 
取締役会の議事録については、法務省令で定めるところにより、議事録を作成し、議事録が書面をもって作成されているときは、出席した取締役及び監査役は、これに署名し、又は記名押印しなければならない。

会社法第371条
第1項 
取締役会設置会社は、取締役会の日(前条の規定により取締役会の決議があったものとみなされた日を含む。)から10年間、第369条第3項の議事録又は前条の意思表示を記載し、若しくは記録した書面若しくは電磁的記録(以下この条において「議事録等」という。)をその本店に備え置かなければならない。
第2項 
株主は、その権利を行使するため必要があるときは、株式会社の営業時間内は、いつでも、次に掲げる請求をすることができる。
一 前項の議事録等が書面をもって作成されているときは、当該書面の閲覧又は謄写の請求
二 前項の議事録等が電磁的記録をもって作成されているときは、当該電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したものの閲覧又は謄写の請求
第3項 
監査役設置会社又は委員会設置会社における前項の規定の適用については、同項中「株式会社の営業時間内は、いつでも」とあるのは、「裁判所の許可を得て」とする。
第4項 
取締役会設置会社の債権者は、役員又は執行役の責任を追及するため必要があるときは、裁判所の許可を得て、当該取締役会設置会社の議事録等について第2項各号に掲げる請求をすることができる。
第5項 
前項の規定は、取締役会設置会社の親会社社員がその権利を行使するため必要があるときについて準用する。
第6項 
裁判所は、第3項において読み替えて適用する第2項各号に掲げる請求又は第4項(前項において準用する場合を含む。以下この項において同じ。)の請求に係る閲覧又は謄写をすることにより、当該取締役会設置会社又はその親会社若しくは子会社に著しい損害を及ぼすおそれがあると認めるときは、第3項において読み替えて適用する第2項の許可又は第4項の許可をすることができない。


両議事録の閲覧・謄写請求に対する制約の有無

 株主による株主総会議事録の閲覧・謄写の権利についてみると、株主は、株主総会のあった日から10年間、会社の営業時間内であれば、何らの制約なく株主総会議事録を閲覧・謄写することが権利として認められています。

 他方で、株主による取締役会議事録の閲覧・謄写の権利は、権利を行使するために必要であるときのみに認められ、しかも、監査役や委員会が設置されている会社の場合には裁判所の許可を得なければ閲覧・謄写の権利が認められていません。
 これは、取締役会の議事には秘密を要する事項も含まれている可能性があり、各株主に自由に議事録を閲覧・謄写することを認めると会社全体の利益を害するおそれがあり、他方で監査役や委員会が設置されている会社にあっては、それらの監査役等が適切に取締役会を監視することが期待できるとの考えに基づいています。
 そのため、監査役や委員会が設置されていない会社においては、株主は権利を行使するために必要であれば、裁判所の許可を得ることなく、取締役会議事録の閲覧・謄写をすることができます。
 他方、監査役や委員会が設置されている株式会社においては、株主は裁判所の許可を得て取締役会議事録を閲覧・謄写する必要があり、裁判所に対して「取締役会議事録閲覧謄写許可申立」を行うこととなります
 同許可申立は、会社の本店所在地を管轄する地方裁判所に対し、申立書に手数料として1000円分の収入印紙を貼付して申し立てます。


日比谷ステーション法律事務所では、株主総会議事録や取締役会議事録の閲覧・謄写に関する法律相談を常時受け付けています。
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2013年11月25日月曜日

取締役の辞任~取締役はどのような手続で辞任することができるのか~

日比谷ステーション法律事務所の弁護士田原です。

株式会社の取締役は多くの場合2年の任期で就任していることが多いかと思いますが、任期途中で取締役を辞任する場合もあります。
今日は取締役の辞任についての法律問題を解説したいと思います。


取締役は自分の意思で辞任することができるか?

まず、取締役は自分の意思で辞任することができるのか?これは言い換えれば他の取締役や株主の意思に反してでも辞任することができるのかという問題です。

取締役と会社との法律関係は委任契約の一種であると理解されており、民法上の委任の規定が適用されます。
そして、民法の委任に関する規定は、「委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる。」(民法第651条第1項)と定めておりますので、取締役は、いつでも自分の意思で一方的に取締役を辞任することができるということになります。

ただし、取締役の辞任によって欠員が出てしまう場合には、取締役の一方的な都合での辞任を認めるわけにはいきませんので、会社法は「役員が欠けた場合又はこの法律若しくは定款で定めた役員の員数が欠けた場合には、任期の満了又は辞任により退任した役員は、新たに選任された役員が就任するまで、なお役員としての権利義務を有する。」(会社法第346条第1項)と定め、新任の取締役が就任するまでの間は取締役の義務を免れることはできないこととされています。


取締役を辞任するにはどうすればよいか?

(1)自分の他に代表取締役がいる場合
自分以外の者が代表取締役として存在する場合には、代表取締役に対して辞任届(辞表)を提出することで辞任することが可能です。辞任届(辞表)は一方的な意思表示で足りますので、辞任届(辞表)が代表取締役に到達すれば効力を生じます。
代表取締役に手渡しで辞任届を提出すれば辞任の効果は生じるのですが、後になって「受理していない。」と言われる可能性があるのであれば、内容証明郵便等の形式で提出することが有効です。

(2)自分が唯一の代表取締役であり、会社に取締役会がある場合
自分が唯一の代表取締役である場合には、代表取締役に対して辞任届(辞表)を提出する方法では辞任することができませんので、原則として、取締役会を招集して辞任の意思表示を行う必要があります。
もっとも、別の方法によって他の取締役全員に辞意が伝わりさえすれば、それで辞任の効力が認められると考えられています。

(3)自分が会社の唯一の取締役である場合
自分しか会社の取締役がいない場合に辞任するケースは極めて少ないといえますが、仮に辞任する場合には、会社の幹部従業員に対して辞任の意思表示受領権限を付与した上で、この幹部従業員に意思表示することで辞任することができる可能性があります。


・取締役を辞任する場合の注意点

以上のように、取締役は自分の意思で一方的に取締役を辞任することができますが、会社に不利な時期に一方的に辞任した場合には、辞任にやむを得ない理由がない限り、会社に対する損害賠償責任を負う可能性がありますので(民法第651条第2項)、その点についての注意が必要といえます。


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2013年6月19日水曜日

不正な行為を行う取締役を解任するには~取締役解任の訴え~

日比谷ステーション法律事務所の弁護士田原です。

今日は株式会社の取締役解任の訴えについて解説します。


・取締役解任2つの方法

株式会社の取締役が職務執行に関して不正な行為を行ったり法令・定款に違反したような場合、
会社は当該取締役に対して損害賠償の請求を行うができます。
また不正行為を行うことが事前に判明している場合には当該行為の差し止めを行うことも可能です。
しかし、取締役が日常的に不正な行為を繰り返し行っている場合に、個別の不正行為に対して事前の差し止めや損害賠償請求を行うのではきりがないという状況も多く見られます。
そのような場合、取締役による不正行為に個別に対応するのではなく、当該取締役を解任するほうが事態の解決として効果的であるということがあります。

取締役を任期途中で解任する方法としては以下の2つの方法が挙げられます。
  • 株主総会で取締役の解任を決議する
  • 取締役解任の訴えを提起し裁判所の判決で解任する

・取締役解任の訴えを選択すべき場合

上記2つの方法のうち、株主総会の決議によって解任する方法は、取締役の解任を考えている株主自身が過半数の株式を保有している場合や、株主の中に協力者がいて議決権の過半数を確保できるような場合には利用が可能です。
しかし、解任対象の取締役を支持する株主が多数派であるような場合には取締役の解任決議が株主総会で通りませんので、この方法をとることはできません。

そこで、解任すべき取締役を支持する株主が多数派であるような場合には、2つ目の方法である取締役解任の訴えを提起するという方法を選ぶこととなります。


・取締役解任の訴え提起のための3要件

取締役解任の訴えを提起するためには、以下の3つの要件をすべて充たす必要があります。

  1. 取締役が職務執行に関して不正行為や法令・定款に違反する重大な事実があったこと
  2. 株主総会で取締役解任決議が否決されたこと
  3. 原告が総株主の議決権の100分の3以上の議決権又は発行済み株式の100分の3以上の数の株式を保有していること(公開会社の場合には訴えの提起の日から逆算して6か月前から株式を保有していることが条件となる)


・取締役の不正行為・法令・定款に違反する重大な事実

会社法854条第1項は「役員の職務の執行に関し不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実があった」ことを取締役解任の訴えの要件としています。

不正行為の典型的なものとしては、会社の財産を私的に費消しているような場合があり、実際の裁判でも取締役個人の会社の財産を混同して管理していたケースにおいて、不正行為の存在を認めたものがあります。

また法令・定款違反の重大な事実としては、取締役が特別な理由もないのに株主総会を何年も招集しなかったような場合が挙げられます。


・株主総会で取締役解任決議が否決されたこと
会社法854条第1項は「当該役員を解任する旨の議案が株主総会において否決された」ことを取締役解任の訴えの要件としています。

この要件を字義通りにとらえると、定足数の出席を得て解任議案を上程し審議がされたものの決議が否決されたことが必要とも考えられますが、これでは多数派株主が株主総会をボイコットすることで取締役解任の訴えを妨害することができてしまうため、定足数不足によって株主総会が流会となったような場合も含まれるものと一般に解されています

他方、単に解任対象とする取締役を支持する株主が多数派であり、株主総会に解任議案を付議しても承認決議がされる見込みがないというだけでは、本要件を充たしたことにはならないと解されています。


・一定数以上の株式・議決権の保有

取締役解任の訴えを提起するためには、総株主の議決権の100分の3以上の議決権又は発行済み株式の100分の3以上の数の株式を保有していることが必要となります。

保有議決権割合・株式割合の計算に当たっては以下の点に注意が必要です。

まず「総株主」からは、当該取締役を解任する旨の議案について議決権を行使することができない株主及び当該請求に係る取締役である株主が除外されます。

また「発行済株式」からは、会社自身が有する株式及び当該請求に係る取締役である株主が有する株式が除外されます。


・取締役解任の訴えを提起する前に検討すべきこと

取締役解任の訴えが裁判所で認められた場合、当該取締役は判決の効力として取締役の地位を失うことになります。
しかし、会社法上、解任判決によって取締役の地位を失った者についても株主総会で再度取締役に選任することが許されています。
そのため、解任された取締役自身が大株主であるような場合や多数派株主の支持を得ているような場合には、解任の効果は一時的なものにとどまり、解任を行うだけでは抜本的な解決とならない場合もあるといえます。

取締役解任の訴えを提起する前には、会社の株主構成等にも目配りをし、解任の訴えが事態を解決するために有用な方法となるのかどうかをよく考慮する必要があります。


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2013年5月10日金曜日

契約書締結後の管理について

日比谷ステーション法律事務所の弁護士田原です。

今日は契約書を締結した後の管理についてコメントしたいと思います。

みなさんの会社では、取引先と契約書を締結した後その契約書について管理するルールが決まっているでしょうか。
「契約書は決められたキャビネットに保管する決まりになっている。」
そういう会社も多いかもしれません。

たしかに、契約書の管理という場合、契約書原本が紛失しないように保管することは重要ですが、契約書を締結した後、契約書を保管しておくだけでは十分とは言えません。
契約書というものは、契約当事者が合意した内容を書面にまとめたものですが、企業間の契約の場合、社内の関係部署に周知されてはじめて実効性を持つものです。

そのため、最低限以下のような契約書の「積極的な管理」を行うことが必要だと考えます。

  1. 契約書原本を所定の場所に保管する
  2. 契約書のポイントをまとめた書面を作成し関係部署に配布する
  3. 契約書で定められた権利・義務に関するスケジュールを作成し関係部署に配布する

契約書を締結した後、契約書の内容を実現していくことに契約の本当の意義がありますので、契約書を締結した後、積極的な管理をしていくことをお勧めします。


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2013年4月22日月曜日

特許権侵害に対する警告書の送付~取引先への送付は慎重に~

日比谷ステーション法律事務所の弁護士田原です。

今日は、自社の特許権が侵害されていることに気付いた場合の法的対処方法に関してお話しします。

自社が特許権を有している場合、その特許権によって保護される範囲の発明を実施する権利は自社にのみ帰属し、他社が当該発明を実施して商品を製造・販売しているような場合には、その差し止めを請求したり、損害賠償を請求したりする法律上の権利があります。
そのため、自社の特許権を侵害して発明を実施している相手を被告として裁判所に訴訟提起することも対処方法の一つとなります。

しかし、実務上、自社の特許権を侵害している他社の行為を認識したとしても、直ちに裁判所に訴訟提起するというケースは多くありません。
これは、特許権を侵害しているかどうかの判断が非常に難しい場合が多いことや、特許権侵害を行っている他社が特許権侵害を認識していない可能性があり(特許権の存在を知らずに発明を実施しているケースも多く見られます)、特許権侵害をしていることについての警告を与えることによって侵害状態が是正されることもあるためです。

そのため、実務上、自社の特許権が侵害されていることに気付いた場合には、まず警告書を相手方に送付し、相手方の反応を待って次の対処(例えば訴訟提起)に移行するという選択をするケースが多いといえます。

自社の特許権を侵害している相手方に警告書を送付する前に、いくつか検討しておかなければならないことがあります。
それは、相手方の行為(発明の実施)が、本当に自社の特許権の侵害となるのかどうかという点の確認です。
相手方の行為が自社の特許権を侵害しているかどうかは、大きく分けて以下の各項目を検討することによって確認します。

  1. 自社特許権の技術的範囲の確認
  2. 相手方行為が自社特許権を侵害しているかどうかの詳細な検討

上記の検討を経て、相手方の行為が自社特許権を侵害していると判断できた場合には、相手方に対して警告書を送付することになります。

警告書には、以下の内容を記載して自社特許権を特定し、相手方の行為が自社特許権を侵害していること、その上で相手方に対して求めること(発明実施の中止や損害賠償を請求する旨を記載することもありますが、最初は相手方の発明実施に関する事実の報告を求める内容のみとすることもあります)を記載します。

<特許権特定のための記載事項>
  1. 特許番号
  2. 出願日
  3. 出願番号
  4. 登録日
  5. 発明の名称
  6. 特許請求の範囲

故意による特許権侵害の場合には特許侵害罪が成立することがありますが、警告書送付の段階(通常は対応初期)で相手方の内心まで把握することは困難ですので、刑事告訴については記載しないようにする必要があります。
 
なお,警告書の送り先として、特許権を侵害している相手方の他、相手方の取引先(侵害商品を製仕入れて販売している会社など)に送る場合もあります。特許権侵害商品の販売をストップさせたい場合などにこの手法が使われることがあります。

しかし、この場合,後の法的手続において相手方の特許権侵害が認められなかった場合、営業誹謗行為・信用毀損行為(不正競争防止法2条1項14号)に該当するものとして、不正競争防止法違反や名誉毀損による責任追及を受けるリスクがありますので,相手方の取引先に警告書を送付する場合には特に慎重な判断が必要となります。


2013年4月19日金曜日

株式併合の手法を利用した少数株主排除(スクイーズアウト)は適法・適切か~同族会社における事業承継のケースを念頭に~

日比谷ステーション法律事務所の弁護士田原です。

今日は、事業承継の場面においてよく課題となる後継者への株式集中の手段として、株式併合の手法を利用することが適切かということを考えてみたいと思います。

日本では、多数の親族に株式が分散保有されている株式会社が多く見られます。
これは、会社創業者が100%株主であったところ創業者の死亡によって複数の法定相続人に法定相続分通りの割合で株式が分散承継されることや、一族の感情的な対立に配慮して親族に公平に分散贈与すること等によって生み出されることが多い現象です。

このように同族会社で多くの親族に株式が分散している状況は、一方では多様な意見が会社経営に反映されることによって会社発展に寄与することもありますが、他方では会社経営者による機動的な会社経営を困難にする場合もあります。

特に、現経営者(例えば創業者の長男。代表取締役社長)が後継者(例えば創業者の孫であり社長の長男)に事業承継しようと考えている場合、後継者が円滑に会社経営を行うためには、少なくとも過半数、可能であれば3分の2以上の議決権の株式を後継者に集中させることが必要となります。

このような、後継者に株式を集中させたいというニーズに基づく法律相談は当事務所にも多く寄せられています。

後継者に株式を集中させる一般的な方法としては次のようなものが挙げられます。

  • 他の株主から後継者が任意取得する
  • 後継者を引受人として募集株式を発行する
  • 会社が他の株主から任意取得する
  • 全部取得条項付種類株式を活用する
  • 株式併合を行い少数株主の株式を1株未満の端数にする

今日は上記のうち株式併合を利用する方法について検討します。

株式併合とは、数個の株式(例えば100株)を合わせてそれより少数の株式(例えば1株)とすることをいいます。
そして、株式併合を行うためには、株主総会において取締役が株式併合を必要とする理由を説明し、株主総会の特別決議で併合の割合と株式併合の効力発生日について決議する必要があります(会社法180条)。

株式の併合によって1株未満の端数が生じた場合には、会社は、その端数の合計数に相当する数の株式を競売し(裁判所の許可を得て会社が買い取る方法もあります)、売得金を従前の株主に分配します(会社法235条、234条2項~5項)。
つまり、株式併合によって1株未満の端数しか保有しなくなった株主は、金銭を得る代わりに株式を失う結果となります。
したがって、たとえば、発行済み株式総数3000株の会社で、Aが2000株、Bが500株、Cが300株、Dが200株をそれぞれ保有している状況において、「1000株を1株とする」という株式併合が行われた場合、Aが2株保有するほか、BCDは全員1株未満の端数しか保有しなくなりますので、結局BCDには対価が交付されますが株式は失うこととなり、会社の株主はAのみとなります。

このように、株式併合はその併合の割合を調整し、少数株主の株式が1株未満の端数となるようにすることで、実質的に少数株主排除(「スクイーズアウト(締め出し)」とも呼ばれます)の手段とすることも可能だと考えられます。

それでは、このように、少数株主を排除することを目的とした株式併合には法律上問題はないのでしょうか。

まず、多数派株主(上記の例のA)は、少数株主(上記の例のBCD)を株式併合によって排除した場合、単独株主として会社の支配権を取得することができ、株式併合を行うことに独自の利益があると評価する余地がありますので、「株主総会の決議について特別の利害関係を有する者」(会社法831条1項3号)に該当する可能性があります。

そして、併合の割合が極端で、一部の大株主を除く大半の株主が株式を失うような場合には、その株式併合は株主平等原則違反と評価される余地があります。

これらのことを考慮すると、多数派株主による少数株主排除を目的とした株式併合に関する株主総会特別決議は、「特別利害関係人の議決権行使による著しく不当な決議」であるとして、株主総会決議取消請求の対象となる可能性があります(会社法831条1項3号)。

株式併合は、株主総会の特別決議を成立させるだけの議決権を確保している場合には、比較的簡単な手続で少数株主排除とそれによる後継者への議決権集中を達成することができる選択肢のように思えますが、上記のようなリーガルリスクを考慮すると、その利用には慎重さが必要であると考えます。


日比谷ステーション法律事務所では、少数株主のスクイーズアウトに関する法律相談を常時受け付けています。
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2013年4月18日木曜日

取締役報酬の減額~パナソニック役員報酬削減発表を受けて~

日比谷ステーション法律事務所の弁護士田原です。

昨日のニュースになりますが、パナソニックが今年7月からの役員報酬を削減(社長・会長は2012年度の水準から半減、他の役員は2割削減。ただし、報酬削減は既に昨年11月から開始されており、今回は社長・会長の削減幅拡大と他の役員の削減維持が決まったもの。)することが発表されました。
パナソニック経営陣による上記役員報酬削減の判断は、同社が2期連続で7000億円超の赤字が見込まれる状況において経営責任を明確にするためのものであり、報酬削減による不利益を受ける取締役らの自主的な判断といえます。

では一般論としては、株式会社の取締役の報酬減額はどのような場合に許されるのでしょうか。
今日は、株式会社における取締役報酬の減額に関する会社法上のルールを説明したいと思います。

まず原則論ですが、定款の定めや株主総会決議によって一旦取締役報酬が具体的に決定された場合、その報酬の内容は会社と取締役との間の契約の内容となりますので、たとえその後に株主総会で減額の支給を行ったとしても、当該取締役本人の同意がない限り、報酬額を減額することは許されません。

もっとも、一旦取締役の報酬が決定されたとしても、任期途中で当該取締役の職務に大きな変更があり、実際に行う業務内容や業務量と取締役報酬とのバランスが合わなくなる場面も発生します。
このような場合、会社の立場としては、職務内容の変更を理由として取締役報酬の減額を主張したいところでしょう。
しかし、最高裁判所(平成4年12月18日第2小法廷判決)の判決は、以下のように判示して、著しい職務内容の変更があった場合の報酬減額を否定しました。

株式会社において、定款又は株主総会の決議(株主総会において取締役報酬の総額を定め、取締役会において各取締役に対する配分を決議した場合を含む。)によって取締役の報酬額が具体的に定められた場合には、その報酬額は、会社と取締役間の契約内容となり、契約当事者である会社と取締役の双方を拘束するから、その後株主総会が当該取締役の報酬につきこれを無報酬とする旨の決議をしたとしても、当該取締役は、これに同意しない限り、右報酬の請求権を失うものではないと解するのが相当である。この理は、取締役の職務内容に著しい変更があり、それを前提に右株主総会決議がされた場合であっても異ならない。」

以上のように、取締役本人の同意がない限り、一旦決定された取締役報酬を減額することはできません。
しかし、ここでいう「取締役本人の同意」には、明示的な同意だけではなく、黙示の同意も含まれると考えられています。
そのため、以下のような場合には、取締役本人の黙示の同意があるとして報酬減額が許されることがあります。

  1. 会社と取締役とが締結する取締役任用契約の中で、会社が一定の場合に一定の範囲内で報酬減額することを認める合意をしている場合
  2. 取締役報酬が個人ごとではなく役職ごとに定められ実際に役職を基準として報酬が支払われている会社であることを、当該取締役が知った上で取締役に就任した場合

上記のような場合には、当該取締役は職務内容や役職に変更があった場合には報酬減額がされることを認識し、予め減額について黙示的に合意していたと認める余地がありますので、報酬減額が有効なものとして認められる可能性があります。

ただし、上記に該当する場合であっても、1.においては取締役任用契約の報酬減額に関する定めが明確なものかどうか、また2.においては役職変更による報酬減額の慣行が認められるかどうか、役職変更が正当な理由に基づくものであるかどうかなどによって、報酬減額が有効なものとなるかどうかについて判断が分かれるものと思われますので、結局は個別の事案ごとに慎重な判断が必要といえます。

なお、取締役の職務内容の変更に伴う報酬減額問題に対応する手段の一つとして、取締役報酬を年度ごとに決定する取扱いに改めるというものがあります。
このように年度ごとに取締役報酬を決めていれば、もし取締役の職務内容に変更が合った場合には、翌年度の報酬はそれに見合った金額に減額した総会決議を行うことで、適法に報酬減額が可能となります。


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2013年4月17日水曜日

秘密保持契約締結の意義~不正競争防止法の「営業秘密」の射程と秘密保持契約との関係~

日比谷ステーション法律事務所の弁護士田原です。

今日は実務で日常的に取り交わされている秘密保持契約について、不正競争防止法で保護されている「営業秘密」との関係を説明します。

不正競争防止法2条6項は、「この法律において『営業秘密』とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう。」と規定し、「営業秘密」を定義しています。

そして不正競争防止法2条1項4号から9号までで、営業秘密の不正取得、不正に取得した営業秘密の使用や、不正の利益を図る目的等での営業秘密の使用・開示等が禁止されています。

したがって、秘密保持契約を個別に締結しなくても、不正競争防止法の「営業秘密」に含まれるのであれば、同法によって一定の保護が与えられます。

では、不正競争防止法による保護があるにもかかわらず秘密保持契約を別途取り交わす意義はどこにあるのでしょうか。
私は、秘密保持契約を取り交わす意義は大きく分けて二つあると考えます。
まず一つは、不正競争防止法で保護される「営業秘密」の範囲が限定的であるため、秘密保持契約によって保持すべき秘密の範囲を拡張することです。
またもう一つは、不正競争防止法で禁止されている営業秘密に関する行為が限定的であるため、同法の規定よりも禁止範囲を拡張したり、あるいは不正競争防止法ではカバーされていない行為義務(例えば情報にアクセスした履歴を記録・提出する義務等)を課すことです。

以下では、上記二つの意義のうち、前者の「営業秘密」の範囲について説明します。

上述のように、「営業秘密」の定義は不正競争防止法2条6項で定められています。
「営業秘密」の定義を分解してみると、「営業秘密」に該当するためには次の条件が揃うことが必要なことが分かります。

  1. 秘密として管理されていること(秘密管理性)
  2. 事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であること(有用性)
  3. 公然と知られていないこと(非公知性)

上記三つの条件のうち、2.の有用性は、「財やサービスの生産、販売、研究開発に役立つなど事業活動にとって有用なもの」であることが裁判例で必要とされています(東京地裁平成14年2月14日判決)が、その範囲は比較的広範囲に及ぶと考えられます。
また3.の非公知性については、当該情報が刊行物等に記載されておらず、保有者の管理下以外では一般に入手できない状態にあることが必要ですが、問題となる情報が一般に入手できることは少なく、実務上問題となることは少ないように思います。

「営業秘密」に該当するかどうかで実務上最も重要な条件は1.の秘密管理性の有無です。
秘密管理性に関する裁判例の傾向としては、以下の二つの要素を中心に検討して秘密管理性の有無を判断しているといえます。

  1. 情報の秘密保持のために必要な管理をしていること(アクセス制限の存在)
  2. アクセスした者にそれが秘密であることが認識できるようにされていること(客観的認識可能性の存在)

そして、上記二つの要素を判断するにあたっては、以下のような事情の有無が秘密管理性の認定を左右することとなります。

  • アクセス権者の限定
  • 施錠されている保管室への保管
  • 事務所内への外部者の入室の禁止
  • 電子データの複製等の制限
  • コンピューターへの外部者のアクセス防止措置
  • システムの外部ネットワークからの遮断
  • 書類への「秘」の押印
  • 社員が秘密管理の責務を認知するための教育の実施
  • 就業規則や誓約書・秘密保持契約による秘密保持義務の設定等
  • 情報の扱いに関する上位者の判断を求めるシステムの存在
  • 外部からのアクセスに関する応答に関する周到な手順の設定

実際に秘密管理性が争われた裁判例において秘密管理性が肯定された割合は比較的低く、秘密管理性が肯定された裁判例の割合は30%を下回っているといわれます(平成22年1月末現在における経済産業省の調査報告より)。
したがって、不正競争防止法の「営業秘密」として保護を受けるためには情報管理に関する人的・物的体制を十分に整える必要がありますが、現実に情報管理体制に充てられる人的・物的資源には限りがあるのが多くの会社の実情かと思います。

そのため、実務上は、取引当事者間や会社と従業員間、会社と取締役の間などで秘密保持に関する契約書を締結し、不正競争防止法で保護されない範囲の企業情報についても、外部に漏洩することや目的外での利用を禁止することが多いのです。

もっとも、秘密保持に関する契約書のリーガルチェックをしていて日頃気付くことですが、保持しようとする秘密情報の定め方が不適切であったり、契約で定める秘密情報の取扱い方法が不適切であることにより、秘密保持に関する契約書で達成しようとしている目的を十分に果たせない内容の契約書ひな型がしばしば見受けられますので、契約書の文言には十分注意し、事案に適合した内容となっているか丁寧に検討する必要があると思います。


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2013年4月16日火曜日

取締役の競業避止義務~退任後の競業禁止について~

日比谷ステーション法律事務所の弁護士田原です。

今日は会社法の分野のうち、取締役の競業避止義務について、取締役退任後の競業避止義務について簡単にお話ししたいと思います。

会社法356条1項は、「取締役は、次に掲げる場合には、株主総会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。」と定め、会社の業務分野において取締役が独自にビジネスを行うような場合には株主総会の承認を要することとしています(取締役会を設置している会社においては、会社法365条1項によって「株主総会」を「取締役会」と読み替えますので、取締役会の承認を要します)。
そして、取締役が株主総会または取締役会の承認を経ずに競業取引を行った場合には、会社法423条2項によって「当該取引によって取締役・・・が得た利益の額」を会社の損害として賠償する義務が生じることとなります。

このように会社法が取締役による競業を制約しているのは、取締役は会社の業務執行の決定に参画しているため事業上の機密に接する機会が多く、自由に競合を行うことを許してしまうと、会社の利益を犠牲にして自分の利益を図る取締役が現れる危険があるためと説明されます。

さて、取締役の競業避止義務ですが、取締役在任中には規制が及ぶものの、取締役を退任した後には対象外です。
そのため、退任取締役は原則として自由に競業を行ってよいのですが、これは会社の立場から見れば、会社の機密を知っている退任取締役が自由に競業を行うこととなりますので、取引の機会を奪われるなどの不利益を被ることが心配されます。
そのため、会社と取締役との間で、在任中あるいは退任時に、競業禁止の誓約書(契約書)を取り交わすことが実務上頻繁に行われています。

しかし、注意すべきことは、競業禁止の誓約書(契約書)を作成しさえすれば、それだけで必ず退任取締役に対して競業禁止義務を負わせることができるとは限らないということです。

退任取締役の競業禁止の合意の効力が問題となった過去の裁判例では、一方で会社の競業禁止を行うことの必要性を認めつつも、他方で退任取締役の職業選択の自由や生計の手段の確保の利益などを考慮し、会社と退任取締役との間で競業禁止の合意があったとしても、合理的な範囲でのみその効力を認める傾向にあります。

そして、競業禁止合意の合理性については、以下のような点を考慮して判断されます(参考となる裁判例として、東京地裁平成7年10月16日決定、東京地裁平成21年5月19日判決などがあります)。
  1. 退任取締役の社内での地位
  2. 営業秘密、取引先維持の必要性
  3. 地域、期間、制限の対象となる職種の範囲
  4. 代償措置の有無や内容


なお、実務的な問題ですが、取締役が会社の内部紛争を原因として退任する場合、退任取締役が競業禁止の誓約書(契約書)に署名しないことが想定されますので、確実に誓約書を用意したい場合には、取締役就任時か在任中に署名を求める必要があります。


日比谷ステーション法律事務所では、退任取締役の競業に関する法律相談を常時受け付けています。
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2013年4月15日月曜日

不当解任された取締役による会社に対する損害賠償請求


日比谷ステーション法律事務所の弁護士田原です。

最近会社経営陣内部のトラブルに関する法律相談を受けることが多いので、今日はその中の一つである、不当解任された取締役が会社に対して損害賠償請求をする制度について説明したいと思います。

会社法339条1項は、「役員及び会計監査人は、いつでも、株主総会の決議によって解任することができる。」と定めています。
そのため、例えば任期2年として就任した取締役であっても、株主総会で解任決議がされてしまった場合には、まだ任期が残っていたとしても解任を拒むということはできません。
このように、任期が残っていても株主総会の決議がある場合には否応なく解任されてしまうのは、会社と役員の間の法律関係は信頼関係を基礎とする委任の性質を有していると理解されており、株主総会で解任決議がされた場合にはこの信頼関係がなくなったと評価されるためです。

もっとも、取締役に対して解任決議がされるのは当該取締役が経営ミスをしたような場合に限られず、例えば株主の意見が二つに割れている場合に、多数派株主の意向に沿わない取締役であることを理由として解任されてしまうことも実際上よくあることです。
このような場合、任期満了まで職務を執行して役員報酬を得る予定であった取締役からすれば、何らの金銭的な補償もなく解任されてしまうことを許容することはできません。

そのため、会社法339条2項は、「前項の規定により解任された者は、その解任について正当な理由がある場合を除き、株式会社に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができる。」と定め、正当な理由がない解任の場合に解任取締役が会社に対して損害賠償請求をすることができるよう手当てしています。

解任取締役が会社に対して損害賠償請求を行う場合、問題となるのは大きく二点です。
一つは「正当な理由のある解任なのかどうか」という点であり、もう一つは「損害賠償としてどのようなお金を請求することができるのか(損害賠償の範囲)」という点です。

さて、まずこのうちの「正当な理由のある解任かどうか」についてはどのように考えられるのでしょうか。
一般的には、以下のような事情による解任は正当な理由のある解任と考えられています。

  1. 法令や定款に違反した職務執行があった場合
  2. 心身の故障により職務執行に支障がある場合
  3. 著しく職務に不適任な場合
  4. 経営判断ミスにより会社に損害を与えた場合

上記の正当な理由のある場合に共通しているのは、客観的にみて役員として職務遂行を継続させることに支障があることです。
他方、単に大株主と折り合いが悪くて解任された場合、就任後にもっと適任の役員が見つかったことを理由とする場合などのように、単なる主観的な信頼関係喪失を理由とする場合には正当な理由のある解任とは考えられていません。

次に、「損害賠償の範囲」についてです。
損害賠償に含まれるかどうかでよく議論の対象となるのは以下のようなものです。

  1. 残存任期期間の役員報酬
  2. 退職慰労金
  3. 慰謝料
  4. 弁護士費用

上記のうち、残存任期期間の役員報酬が損害賠償に含まれることには争いがありません。

次に退職慰労金ですが、退職慰労金は、定款に定めがある場合を除いては、株主総会で支給する旨の決議があって初めて支給される性質を持っているため、当然に損害賠償に含まれると考えることはできません。
しかし、役員に関する退職慰労金支給規定が定められていたり、過去に退職慰労金支給規定に基づいて退職慰労金が支給されている慣行があるような場合には、任期満了で役員を退任した際に退職慰労金が支払われた可能性が高いと判断され、損害賠償に含まれることもあり得ます。

慰謝料と弁護士費用については、損害賠償に含まれないと考えるのが一般的です。

不当解任された取締役が会社に損害賠償を請求する場合には、退職慰労金支給規定や過去の退任取締役に退職慰労金が支給されている証拠(株主総会議事録など)を事前に確保しておくことが重要です。


日比谷ステーション法律事務所では、取締役の解任と損害賠償に関する法律相談を常時受け付けています。
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2013年4月12日金曜日

「インサイダー取引」とは~イー・アクセス株インサイダー取引事件を参考に~

日比谷ステーション法律事務所の弁護士田原です。

昨日のことになりますが、携帯電話会社イー・アクセスの株式に関するインサイダー取引容疑により、同社社員で元役員秘書が逮捕されました。
報道によりますと、逮捕された元役員秘書は、平成24年9月28日~29日頃、ソフトバンクがイー・アクセスを株式交換方式で買収するとの重要事実を入手し、この事実が公表される直前の同年10月1日に、自分の名義でイー・アクセス社株式を約690株、総額約1000万円で買い付けたとのことです。
イー・アクセス社株式は、平成24年9月末までは1株あたり1万5000円前後で推移していましたが、10月1日にソフトバンクがイー・アクセス社の買収を発表したことを受けて翌日以降急騰し、その後行われた株式交換により、逮捕された元役員秘書はソフトバンク株式を約1万4000株取得し、約3000万円の含み益を得たとされています。

このニュースを読み解くにあたっては、「インサイダー取引」についての知識が必要となります。

それでは、「インサイダー取引」とはどのような取引をいうのでしょうか。
インサイダー取引は、法律の世界では「内部者取引」と呼ばれており、「内部者取引」は大きく「会社関係者取引」と「公開買付者等関係者取引」の二つに大別されます。
今回のイー・アクセス株インサイダー取引事件は、このうち前者の「会社関係者取引」に分類される事案ですので、ここでは「会社関係者取引」についてのみ説明します。

金融商品取引法166条1項は、会社関係者などの立場にある人が、一定の重要事実を知った場合、その重要事実が公表されるまでの間、その者が会社の株式に関する取引を行うことを禁止し、さらに同法197条の2は、この禁止に違反した者に対して「5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」という罰則を定めています。
これが「会社関係者取引の禁止」を定めた法律ということになります。

金融商品取引法166条1項で禁止されるインサイダー取引となるためには、
  1. 会社関係者(役員、代理人、従業員等)や会社関係者から重要事実の伝達を受けた人が、
  2. 法律で定める重要事実を知った場合に、
  3. その重要事実が公表される前に、
  4. 会社株式の売買やデリバティブ取引を行うこと
という条件が全て揃うことが必要となります。

「会社関係者が会社の株式を売買すると全てインサイダー取引になる」とか、「自分は情報を聞いただけで会社関係者ではないからインサイダー取引ではない」といった誤解をされている方の話を聞くことがありますが、法律上禁止されるインサイダー取引になるかどうかは、上記の条件が揃うかどうかで判断されますので注意が必要といえます。

今回報道されているイー・アクセス社の元役員秘書についても、ソフトバンク社によるイー・アクセス社買収の事実を知ったうえでイー・アクセス株式を取得したのであるとすれば、金融商品取引法が禁止するインサイダー取引として処罰を受ける可能性があります。

インサイダー取引は、金融商品市場に参加するプレイヤーが公平な環境下でリスクテイクするという、金融商品市場の公正さを支える前提を害するものであり、今後も厳しく監視されなければならないと考えます。