2013年4月12日金曜日

「インサイダー取引」とは~イー・アクセス株インサイダー取引事件を参考に~

日比谷ステーション法律事務所の弁護士田原です。

昨日のことになりますが、携帯電話会社イー・アクセスの株式に関するインサイダー取引容疑により、同社社員で元役員秘書が逮捕されました。
報道によりますと、逮捕された元役員秘書は、平成24年9月28日~29日頃、ソフトバンクがイー・アクセスを株式交換方式で買収するとの重要事実を入手し、この事実が公表される直前の同年10月1日に、自分の名義でイー・アクセス社株式を約690株、総額約1000万円で買い付けたとのことです。
イー・アクセス社株式は、平成24年9月末までは1株あたり1万5000円前後で推移していましたが、10月1日にソフトバンクがイー・アクセス社の買収を発表したことを受けて翌日以降急騰し、その後行われた株式交換により、逮捕された元役員秘書はソフトバンク株式を約1万4000株取得し、約3000万円の含み益を得たとされています。

このニュースを読み解くにあたっては、「インサイダー取引」についての知識が必要となります。

それでは、「インサイダー取引」とはどのような取引をいうのでしょうか。
インサイダー取引は、法律の世界では「内部者取引」と呼ばれており、「内部者取引」は大きく「会社関係者取引」と「公開買付者等関係者取引」の二つに大別されます。
今回のイー・アクセス株インサイダー取引事件は、このうち前者の「会社関係者取引」に分類される事案ですので、ここでは「会社関係者取引」についてのみ説明します。

金融商品取引法166条1項は、会社関係者などの立場にある人が、一定の重要事実を知った場合、その重要事実が公表されるまでの間、その者が会社の株式に関する取引を行うことを禁止し、さらに同法197条の2は、この禁止に違反した者に対して「5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」という罰則を定めています。
これが「会社関係者取引の禁止」を定めた法律ということになります。

金融商品取引法166条1項で禁止されるインサイダー取引となるためには、
  1. 会社関係者(役員、代理人、従業員等)や会社関係者から重要事実の伝達を受けた人が、
  2. 法律で定める重要事実を知った場合に、
  3. その重要事実が公表される前に、
  4. 会社株式の売買やデリバティブ取引を行うこと
という条件が全て揃うことが必要となります。

「会社関係者が会社の株式を売買すると全てインサイダー取引になる」とか、「自分は情報を聞いただけで会社関係者ではないからインサイダー取引ではない」といった誤解をされている方の話を聞くことがありますが、法律上禁止されるインサイダー取引になるかどうかは、上記の条件が揃うかどうかで判断されますので注意が必要といえます。

今回報道されているイー・アクセス社の元役員秘書についても、ソフトバンク社によるイー・アクセス社買収の事実を知ったうえでイー・アクセス株式を取得したのであるとすれば、金融商品取引法が禁止するインサイダー取引として処罰を受ける可能性があります。

インサイダー取引は、金融商品市場に参加するプレイヤーが公平な環境下でリスクテイクするという、金融商品市場の公正さを支える前提を害するものであり、今後も厳しく監視されなければならないと考えます。