2013年4月15日月曜日

不当解任された取締役による会社に対する損害賠償請求


日比谷ステーション法律事務所の弁護士田原です。

最近会社経営陣内部のトラブルに関する法律相談を受けることが多いので、今日はその中の一つである、不当解任された取締役が会社に対して損害賠償請求をする制度について説明したいと思います。

会社法339条1項は、「役員及び会計監査人は、いつでも、株主総会の決議によって解任することができる。」と定めています。
そのため、例えば任期2年として就任した取締役であっても、株主総会で解任決議がされてしまった場合には、まだ任期が残っていたとしても解任を拒むということはできません。
このように、任期が残っていても株主総会の決議がある場合には否応なく解任されてしまうのは、会社と役員の間の法律関係は信頼関係を基礎とする委任の性質を有していると理解されており、株主総会で解任決議がされた場合にはこの信頼関係がなくなったと評価されるためです。

もっとも、取締役に対して解任決議がされるのは当該取締役が経営ミスをしたような場合に限られず、例えば株主の意見が二つに割れている場合に、多数派株主の意向に沿わない取締役であることを理由として解任されてしまうことも実際上よくあることです。
このような場合、任期満了まで職務を執行して役員報酬を得る予定であった取締役からすれば、何らの金銭的な補償もなく解任されてしまうことを許容することはできません。

そのため、会社法339条2項は、「前項の規定により解任された者は、その解任について正当な理由がある場合を除き、株式会社に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができる。」と定め、正当な理由がない解任の場合に解任取締役が会社に対して損害賠償請求をすることができるよう手当てしています。

解任取締役が会社に対して損害賠償請求を行う場合、問題となるのは大きく二点です。
一つは「正当な理由のある解任なのかどうか」という点であり、もう一つは「損害賠償としてどのようなお金を請求することができるのか(損害賠償の範囲)」という点です。

さて、まずこのうちの「正当な理由のある解任かどうか」についてはどのように考えられるのでしょうか。
一般的には、以下のような事情による解任は正当な理由のある解任と考えられています。

  1. 法令や定款に違反した職務執行があった場合
  2. 心身の故障により職務執行に支障がある場合
  3. 著しく職務に不適任な場合
  4. 経営判断ミスにより会社に損害を与えた場合

上記の正当な理由のある場合に共通しているのは、客観的にみて役員として職務遂行を継続させることに支障があることです。
他方、単に大株主と折り合いが悪くて解任された場合、就任後にもっと適任の役員が見つかったことを理由とする場合などのように、単なる主観的な信頼関係喪失を理由とする場合には正当な理由のある解任とは考えられていません。

次に、「損害賠償の範囲」についてです。
損害賠償に含まれるかどうかでよく議論の対象となるのは以下のようなものです。

  1. 残存任期期間の役員報酬
  2. 退職慰労金
  3. 慰謝料
  4. 弁護士費用

上記のうち、残存任期期間の役員報酬が損害賠償に含まれることには争いがありません。

次に退職慰労金ですが、退職慰労金は、定款に定めがある場合を除いては、株主総会で支給する旨の決議があって初めて支給される性質を持っているため、当然に損害賠償に含まれると考えることはできません。
しかし、役員に関する退職慰労金支給規定が定められていたり、過去に退職慰労金支給規定に基づいて退職慰労金が支給されている慣行があるような場合には、任期満了で役員を退任した際に退職慰労金が支払われた可能性が高いと判断され、損害賠償に含まれることもあり得ます。

慰謝料と弁護士費用については、損害賠償に含まれないと考えるのが一般的です。

不当解任された取締役が会社に損害賠償を請求する場合には、退職慰労金支給規定や過去の退任取締役に退職慰労金が支給されている証拠(株主総会議事録など)を事前に確保しておくことが重要です。


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