2013年4月16日火曜日

取締役の競業避止義務~退任後の競業禁止について~

日比谷ステーション法律事務所の弁護士田原です。

今日は会社法の分野のうち、取締役の競業避止義務について、取締役退任後の競業避止義務について簡単にお話ししたいと思います。

会社法356条1項は、「取締役は、次に掲げる場合には、株主総会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。」と定め、会社の業務分野において取締役が独自にビジネスを行うような場合には株主総会の承認を要することとしています(取締役会を設置している会社においては、会社法365条1項によって「株主総会」を「取締役会」と読み替えますので、取締役会の承認を要します)。
そして、取締役が株主総会または取締役会の承認を経ずに競業取引を行った場合には、会社法423条2項によって「当該取引によって取締役・・・が得た利益の額」を会社の損害として賠償する義務が生じることとなります。

このように会社法が取締役による競業を制約しているのは、取締役は会社の業務執行の決定に参画しているため事業上の機密に接する機会が多く、自由に競合を行うことを許してしまうと、会社の利益を犠牲にして自分の利益を図る取締役が現れる危険があるためと説明されます。

さて、取締役の競業避止義務ですが、取締役在任中には規制が及ぶものの、取締役を退任した後には対象外です。
そのため、退任取締役は原則として自由に競業を行ってよいのですが、これは会社の立場から見れば、会社の機密を知っている退任取締役が自由に競業を行うこととなりますので、取引の機会を奪われるなどの不利益を被ることが心配されます。
そのため、会社と取締役との間で、在任中あるいは退任時に、競業禁止の誓約書(契約書)を取り交わすことが実務上頻繁に行われています。

しかし、注意すべきことは、競業禁止の誓約書(契約書)を作成しさえすれば、それだけで必ず退任取締役に対して競業禁止義務を負わせることができるとは限らないということです。

退任取締役の競業禁止の合意の効力が問題となった過去の裁判例では、一方で会社の競業禁止を行うことの必要性を認めつつも、他方で退任取締役の職業選択の自由や生計の手段の確保の利益などを考慮し、会社と退任取締役との間で競業禁止の合意があったとしても、合理的な範囲でのみその効力を認める傾向にあります。

そして、競業禁止合意の合理性については、以下のような点を考慮して判断されます(参考となる裁判例として、東京地裁平成7年10月16日決定、東京地裁平成21年5月19日判決などがあります)。
  1. 退任取締役の社内での地位
  2. 営業秘密、取引先維持の必要性
  3. 地域、期間、制限の対象となる職種の範囲
  4. 代償措置の有無や内容


なお、実務的な問題ですが、取締役が会社の内部紛争を原因として退任する場合、退任取締役が競業禁止の誓約書(契約書)に署名しないことが想定されますので、確実に誓約書を用意したい場合には、取締役就任時か在任中に署名を求める必要があります。


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